ランニングでドリルを行う目的|なんとなくを言語化してみる

トレーニング

読了時間: 約8分 / 対象: ドリルをなんとなく習慣でやっている、あるいはやった方がいいとわかっているのに続かないマラソンランナー

自分は「ドリル」というものがどうしても面倒に感じてしまい、これまでほとんどやってきませんでした。

それが、今年に入ってから練習前のルーティンとして取り入れるようになりました。きっかけは12月に出場したレースで脚が攣って失速したことで、痙攣対策として現状を変える可能性があるものはなんでも試してみようと思ったことです。

取り入れてしばらくして、同じペースのジョグで以前よりピッチが上がっているのに気づきました。意識していないのに、脚が細かく回るようになっていました。

「なんとなく効いた気がする」を少し言語化してみたいと思います。ただし最初に正直に書いておくと、一般的にドリルが広まっているのは経験則に基づく慣習的な側面が強く、マラソンランナーへの効果を直接示した科学的根拠は多くありません。その前提で読んでいただければと思います。


脳から筋肉への「道」という話

脳が「脚を動かせ」と命令を出すとき、その指令は電気信号として神経を通り、筋肉まで届きます。これは運動生理学の基本で、どの教科書にも書いてあることです。

ここで重要なのは、その経路が一様ではないということです。よく使われる経路は信号が速く・確実に届くようになり、使われない経路は弱くなっていきます。「繰り返し使われる神経経路は強化される」というのは、運動学習の分野で確立した原理です。

わかりやすい例で言うと、右利きの人が左手で字を書くときの感覚です。頭ではどう動かせばいいかわかっているのに、思い通りに動かない。これは左手を動かす経路がまだ十分に整備されていないからです。何度も練習するうちに動くようになるのは、経路が強化されるからです。

箸を使い慣れていない人が最初に苦労するのも、同じ理由です。

ドリルは、走る動作の一部を分解して反復することで、その動作に必要な経路を意図的に強化する作業です。自分はそう理解しています。


ドリルの使われ方は2種類ある

マラソン練習でドリルが行われる目的を整理すると、大きく2つに分けられると思っています。あくまで私自身の理解の整理です。

新しい道を開通させる

まだ身についていない動きを、反復によって覚えさせる使い方です。正しい膝の振り上げ方、接地の位置、腕振りとのタイミングなど、意識しないとできない動作を少しずつ習慣化していく。フォーム改善を目的とした使い方はこちらに近いと思います。

荒れた道を整備する

しばらく使っていなかった経路を起こす使い方です。毎日走っていても、練習開始直後は動きがぎこちなかったり、感覚が鈍かったりすることがあります。ウォームアップとしてのドリルは、そういった「眠っている経路」を短時間で起こすことができます。

どちらも「意識しなくても体が動く状態」を目指すという点では同じです。

ただしこれは著者の整理であり、「ドリルがこのメカニズムで効く」と直接示した研究はほとんどありません。陸上コーチ209人を対象にした調査(Whelan et al., 2016)でも、ドリルを重視するコーチは多いものの、選択の根拠が科学的なものより慣習やベテランコーチの模倣に基づいているケースが多いことが指摘されています。

「やった方がいいらしい」が先に広まって、なぜいいのかの言語化が追いついていない。ドリルはそういう練習メニューだと思います。

ドリルの効果として確実に言えること

科学的根拠が薄いとはいえ、ウォームアップとしての効果は別の話です。ここは運動生理学として確立しており、わざわざ研究で確かめるまでもありません。

動的な動きを継続することで、筋温が上昇します。筋温が上がると筋収縮の速度が上がり、動きが滑らかになります。股関節や足首の可動域も、静止した状態より動的な反復の後の方が広くなります。心拍数が段階的に上がることで、いきなり高強度で走り始めるより心肺への負荷が穏やかになります。

これらはドリル特有の効果ではなく、動的ウォームアップ全般に言えることです。それでも、走動作の一部を使いながらウォームアップできるという点で、ドリルはジョグ開始前の準備として理にかなっていると思います。

「流し」「刺激入れ」について

同様に慣習的なものとして、ドリルと同じ文脈で理解できるものとしては、「流し」と「レース前の刺激入れ」があります。

流しはドリルで整備した道を、より実際のレースペースに近い速さで確認する作業です。ドリルが「道の整備」なら、流しは「テスト走行」と言えるかもしれません。

レース前日に軽い流しを入れるのも、同じ理屈です。長い距離を走らなくても、速い動きのパターンを前日に一度確認しておくことで、当日の体の準備が変わる気がしています。どちらも5分もかからないものですし、やる意味はあると思っています。

私が実施しているメニューと各ドリルの意図

参考として、現在のルーティンを紹介します。練習開始前、ジョグの前に行っています。

Aスキップ: 腿をしっかり引き上げながらスキップする動きです。腿上げと腕振りのタイミングを合わせながら前進することで、股関節まわりを起こす効果があると言われています。自分は自分は接地時に姿勢を安定させ、地面からの反発を生かすことを意識しています。

2ステップ: 左右交互に小さくスキップしながら前進する動きです。Aスキップ同様、自分は接地時に姿勢を安定させ、地面からの反発を生かすことを意識しています。片足で2回ステップする分、Aスキップと比べて姿勢の安定が難しいです。

その他ルーティーン

スイング(前後) 脚を前後に振るシンプルな動きです。股関節の可動域を動的に確保することが主な目的で、最初に入れることが多いです。これは「道を起こす」というより単純な関節のウォームアップ(動的ストレッチ)に近いと思います。

ポゴジャンプ(アンクルホップとも呼ばれます):これはドリルとは別のカテゴリです。ドリルが「走動作のパターンを反復する」ものだとすると、これはプライオメトリクストレーニングに分類されます。膝をなるべく曲げずに両足で連続してその場で跳ねる動きで、足首の腱が持つバネのエネルギー(伸張-短縮サイクル / SSC)を使う訓練です。腱のスティフネス(バネとしての固さ)向上を期待して取り入れています。

プライオメトリクスの仕組みについてはマラソンランナーのための筋トレ4種類で詳しく書いています。

自分のデータ

ドリルを継続的に取り入れるようになってから、Garminのログに変化が出ました。同じEペース帯(5:20〜5:50/km)のデータを前後で比較しています。

時期同ペース帯の平均ピッチサンプル数
ドリル導入前(〜2024-11)165.4spm64回
導入後(2025-12〜)174.5spm22回

同じペースで走っているのに、ピッチが+9.1spmになっています。

これは「細かく速く脚を回す」という動作パターンが習慣化したからではないか、というのが自分の仮説です。

ただし正直に書くと、補強(筋トレ)も同時期に始めているため、ドリル単独の効果とは言い切れませんが、それでも変化が現れているのは確かです。


なぜドリルをやるか(私の場合)

ピッチが上がることは、ランニングエコノミー(同じペースを維持するために必要なエネルギー量)の改善につながる可能性があります。ピッチと走行コストの関係を調べた系統的レビュー(Van Hooren et al., Sports Medicine, 2024)では、ピッチが高いことと走行コストが低いことに弱い相関(r = -0.20)が確認されています。「ピッチを上げれば必ずREが改善する」と言えるほどの根拠ではありませんが、方向性としては整合しています。

もうひとつ、個人的に期待しているのがEAMC(運動誘発性筋痙攣)対策との接続です。REが改善されれば、同じペースで走るときの筋肉への負荷が相対的に下がります。レース後半の神経筋疲労をわずかでも遅らせることにつながるかもしれない、という期待が取り組みの動機のひとつです。

自分の場合、34km前後で攣り始めるパターンが何レースも続いています。その距離を少しでも遠ざけたい。ドリルがその直接的な解決策だとは思っていませんが、積み上げていく要素のひとつとして位置づけています。

EAMCのメカニズムについてはマラソンで足がつる本当の原因で詳しく書いています。


まとめ

「ドリルはなぜ大事か」を言語化しようとしたとき、正直なところ根拠は思ったより薄いことがわかりました。コーチによる経験則として慣習として広まっている部分が大きく、マラソンランナーへの効果を直接示した研究は少ないです。

ただし、科学的に証明されていないことと、効果がないことは別の話だと思っています。世界中の優れたコーチたちが長年実践してきた経験則には、研究が追いついていないだけで、意味があることも多いはずです。ドリルもそのひとつだと考えています。

少なくとも、ウォームアップとしての効果は生理学として確立しており、やらないより明らかにいいです。動作パターンの反復として理論的な整合性もあります。自分のデータとしてピッチの変化も出ています。

5分でいいと思います。何年もサボっていた自分が言うのも説得力がないかもしれませんが、やり始めてから何かが変わった感覚はあるので、この後も継続して習慣化していきたいと思います。


※ トレーニングには個人差があります。怪我や体調に応じて無理なく取り入れてください。


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