これまでの多くのエントリーで痙攣について取り上げて来ましたが、今回は発汗との関係とグリセリンローディングについて考えてみたいと思います。
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発汗と痙攣
「ランニング中の脚つり・痙攣の原因 ~ 運動生理学的研究まとめ」のエントリーでまとめたように、今のところ痙攣の原因は不明確ではあるが、「筋疲労による神経の異常反応説」が最も有力で、「電解質不足説」についてはエビデンスに不足しているという状況です。自分の中でもそのように落ち着いているのですが、それだと、事例から考える脚つり・痙攣の原因でもあげた大量に発汗している時に脚が攣っているという事例の説明がつきません。サンプルは1つしかありませんが、知人でも大量に発汗している時に脚が攣りやすいという人がいます。
脚が攣りやすい人とそうでない人の間で、血液中の電解質濃度に差はみられなかったという研究はいくつかあるようですが、発汗による電解質濃度の低下に起因して脚が攣るのではなく、発汗による別の影響に起因して脚が攣っているとも考えられないでしょうか。
発汗(脱水)が身体に与える影響
『アドバンスト・マラソントレーニング』 では発汗に伴う脱水の生理学的なメカニズムが以下のように説明されています。
・血液量が減少する
・心臓に戻る血液が減少する
・1回の拍動ごとに心臓から送り出される血液量が減少する
・活動筋に送り込まれる血中酸素濃度が低下する
・有酸素性エネルギーの産生が減少する
・ペースを遅くせざるを得なくなるこうした状況は、気温の高い日にはさらに悪化する。というのも、高温に対して身体は通常、皮膚血流量を増やし身体から熱を放散させ冷却を促進する、というプロセスを働かせるからである。このプロセスが働くと、心臓に戻り再び活動筋に送り込まれる血流量がさらに減少する。
もし、発汗により活動筋に送り込まれる血流量が減少することが、筋疲労につながっているのであれば、「筋疲労による神経の異常反応説」と同様のことが起こっていると考えられるのではないでしょうか?
グリセリンローディング
では発汗による影響を最小限に抑える方法はないのかというのが次に気になるところです。同じく、『アドバンスト・マラソントレーニング』 の中では適量のグリセロール(グリセリン)がプラスに働く可能性があると述べられています。
グリセロールは生体内で自然に生成される物質である。グリセロールを摂取すると、体内に貯蔵可能な水分量が増加する。体内水分量が多ければ、気温が高い日のレースでは有利になる。それはレース終盤まで脱水症にならないからである。既にグリセロールを含んだスポーツドリンクも市販されているが、グリセロールが暑熱下でのパフォーマンスを高めるか否かについては未だ議論が続いている。
実際のところグリセリンの摂取効果に関する研究はいくかあるようです。
- グリセリン飲料の摂取による運動前のハイパーハイドレーションが高温環境下における持久的能力に及ぼす影響
- Effects of glycerol-induced hyperhydration prior to exercise in the heat on sweating and core temperature
- The effect of glycerol hyperhydration on olympic distance triathlon performance in high ambient temperatures.
- Glycerol-induced hyperhydration: a method for estimating the optimal load of fluid to be ingested before exercise to maximize endurance performance.
パフォーマンスの向上に繋がるかは議論の余地があるようですが、発汗によるマイナスの影響を最小限に抑えることができるのであれば試してみる価値はあると思います。
探してみると、日本でも幾つか商品が販売されているようです。
ドーピングになるか?
ところが、世界アンチドーピング規程の禁止表国際基準によると、グリセロールは隠蔽薬として禁止物質に指定されているようです。
S5. 利尿薬および隠蔽薬
以下の利尿薬と隠蔽薬、および類似の化学構造又は類似の生物学的効果を有するもの
は禁止される。
以下の物質が禁止されるが、これらに限定するものではない:
● デスモプレシン;プロベネシド;血漿増量物質[グリセロール、および以下の物
質(アルブミン、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、マンニトール)の
静脈内投与等];
体内の水分量を増やすことでその他禁止物質の濃度を薄める(隠蔽する)効果があり、ドーピング検査で検出回避に繋がるからということでしょうか。
一方で、グリセリン飲料の販売会社は日本アンチドーピング機構に確認した結果として以下の様に述べています。
プロアスリートの場合はドーピングの問題が気になるかと思いますが、日本アンチ・ドーピング機構に確認したところ、体重1キログラムあたり1.0~1.5グラムのグリセリンを摂取するとドーピングに引っかかるということでした。体重60キロであれば、60~90グラム摂取するとNGになります。当社で作っているグリセリンローディングを採用した「+α WATER」は、1本のスティックを500~1000ミリリットルの水に溶かして摂取するものですが、1本あたりのグリセリン含有量は0.4グラムです。スティックを一気に150本くらい飲んだらアウトということになりますが、一日に使う量はせいぜい1~2本。まったく心配いらないと言っていいレベルでしょう。
アンチドーピング機構の公式な見解は探しても見つからず、上記の情報だけとなってしまいますが、以下のような論文もあることから、実質的には問題ないのかもしれません。
In conclusion, this study shows that supplementation with hyperhydrating solution containing Gly for 7 days does not significantly alter doping-relevant blood parameters.
※要約:結論として、本研究では7日間のグリセロール摂取によるハイパーハイドレーションはドーピング関連の血中パラメータに著しい影響を与えることはないことが示された。
【2026年3月 追記】
その後、WADAは2018年にグリセロールを禁止リストから除外しています。現在は競技レベルを問わず使用可能です。ただし規定は毎年更新されるため、使用前にWADA禁止表国際基準の最新版およびJADAの情報を確認することをお勧めします。
まとめ
梅雨も明け、真夏日が続く今日この頃。5km走っただけでTシャツから大量の汗が絞り出せる程大量に汗をかくようになったこれからの季節は、グリセリンローディングの効果を検証するのにちょうど良い季節です。新しい切り口での対策として藁にもすがる思いでロング走の時にでも試してみたいと思います。






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