読了時間: 約10分 / 対象: 補強トレーニングを取り入れたいマラソンランナー
筋トレとして「エキセントリックが大事」「プライオをやれ」という言葉はよく聞くけれど、実際のところ何が何に効くのか、自分にはよくわかっていませんでした。
言葉として知ってはいるが、具体的な動きのイメージと効果の説明が頭の中でつながらない、という感覚です。
2025-2026シーズンから本格的に補強を取り入れるにあたって、一度きちんと整理してみることにしました。この記事はその作業の記録です。
まず「走る」ときに筋肉はどう動いているか
4種類の筋収縮を理解する前に、走動作の中で筋肉がどう使われているかを確認しておきます。
1歩の接地から蹴り出しまでを分解すると、大きく3つの局面があります。

着地(ブレーキ)
足が地面についた瞬間、体重を受け止めるために膝や足首が曲がります。この時、太もも前(大腿四頭筋)やふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)は「引き伸ばされながら力を出す」状態になっています。
姿勢維持(ロック)
体重が片脚に乗った瞬間、上体が崩れないように体幹や股関節周りが「長さを変えずに力を出し続ける」状態になっています。
蹴り出し(アクセル)
地面を蹴る局面では、筋肉が「縮みながら力を出す」状態になっています。
これが走動作の筋収縮の基本構造です。そして4種類の筋トレは、それぞれこの局面のどこかをターゲットにしています。
4種類の筋収縮とは
4種類の筋収縮:筋肉・腱・骨の動態比較
1. エキセントリック (伸張性)
「ブレーキ」:着地衝撃に耐える局面。筋肉痛の主因。
2. アイソメトリック (等尺性)
「安定」:プランクや姿勢保持に重要。
3. コンセントリック (短縮性)
「出力」:地面を蹴り出す局面。
4. プライオメトリクス
「反発」:腱をバネにして跳ねる。効率的な走りの核。
エキセントリック(伸張性収縮)
筋肉が伸びながら力を出す動きです。
カーフレイズ(かかと上げ)でかかとをゆっくり下ろす局面、スクワットでゆっくり腰を落とす局面がこれにあたります。
走動作では着地(ブレーキ)の局面がこれに相当します。ふくらはぎや大腿四頭筋が「ブレーキをかけながら伸びる」状態です。
特徴として、同じ動きでもコンセントリック(縮む)局面より大きな力を出せる一方、筋肉へのダメージが大きく、翌日に筋肉痛が出やすい。これがエキセントリックが「きつい補強」と感じられる理由です。
アイソメトリック(等尺性収縮)
筋肉の長さが変わらずに力を出す動きです。
プランク・ウォールシット・片脚スクワットでの静止局面がこれにあたります。関節が動かないため、インナーマッスルや体幹の安定性トレーニングとして使われることが多い種類です。
走動作では姿勢維持(ロック)の局面がこれに相当します。
コンセントリック(短縮性収縮)
筋肉が縮みながら力を出す動きです。
カーフレイズでかかとを上げる局面、スクワットで立ち上がる局面がこれです。一般的な「筋トレ」のイメージに最も近い動きです。
走動作では蹴り出し(アクセル)がこれに相当します。ただし後述しますが、コンセントリック中心の筋トレ単独ではランニングエコノミーへの効果が限定的という研究があります。
プライオメトリクス(伸張-短縮サイクル)
筋肉が素早く伸ばされた直後に縮む動きです。
正確には単一の収縮種類というより、エキセントリック→コンセントリックの素早い切り替え(SSC:ストレッチ-ショートニングサイクル)のことを指します。
ジャンプ・バウンディング・ボックスジャンプ、そしてランニングでいえば流しや速めのドリルがこれに近い刺激を与えます。
腱スティフネス(バネとしての腱の固さ、サスペンションの固さ)が弾性エネルギーを蓄え、素早く放出する能力を鍛えます。
マラソンへの効果——研究が示すこと
4種類を整理したうえで、それぞれがマラソンパフォーマンスにどう効くかを確認します。指標はおもにランニングエコノミー(RE)——同じペースで走るのに必要な酸素量で、低いほど効率がよい——です。
エキセントリック重視の高負荷筋トレ:効果あり
複数の研究をまとめた分析で、高負荷筋トレ(最大挙上重量の80%以上)はランニングエコノミーを有意に改善することが示されています(Llanos-Lagos et al., Sports Medicine, 2024)。
特にエキセントリック局面を重視した高負荷トレーニングは、着地時の衝撃吸収能力と腱スティフネス(バネとしての腱の固さ)の向上を通じて、ランニングエコノミーを改善すると考えられています。
レクリエーショナルマラソンランナーを対象にした研究でも、6週間の高負荷筋トレがランニングエコノミーと最大酸素摂取速度(vVO2max)をともに改善したと報告されています(Li et al., European Journal of Sport Science, 2021)。
コンセントリック中心の中負荷筋トレ:効果は限定的
一方、重量の低い(最大挙上重量の40〜79%)中負荷での筋トレはランニングエコノミーへの有意な改善が確認されていません(Llanos-Lagos et al., 2024)。
「ある程度の負荷でそれなりの回数」という一般的な筋トレのイメージは、残念ながらランニングエコノミー向上という観点では効率がよくないようです。
アイソメトリック:現時点では効果が確認されていない
アイソメトリックについては、腱スティフネスの向上やランニングエコノミー改善の可能性を示した個別の研究がいくつかあり、全体的な練習負荷が高い時期の代替手段として有望という指摘もあります(Resistance Exercise for Improving Running Economy: A Narrative Review, PMC, 2022)。
しかしLlanos-Lagos et al.(Sports Medicine, 2024)で実施された複数の研究のまとめ分析では、アイソメトリックトレーニングはランニングエコノミーへの有意な改善が確認されなかったという結論が出ています。個別研究での「可能性」と、複数研究をまとめた分析での「効果なし」が並存する状況で、現時点では後者のエビデンスレベルが上です。
この辺りは意外でしたが、理屈上、体幹を安定させる力というのは十分大事だと思うので、「効果がない」と断言するより「現時点では有意な改善が確認されていない」という表現が正しいのかもしれません。
プライオメトリクス:特に低速域(遅めのペース)で効果あり
プライオメトリクスは複数の研究をまとめた分析でランニングエコノミーへの改善効果が確認されています。
特筆すべきは、効果が速度域によって異なる点です。時速12km以下(5:00/km以上の遅めのペース)でのランニングエコノミー改善効果が小程度確認されており、一方で速い速度域(12km/h超)では効果が限定的という結果が出ています(Llanos-Lagos et al., 2024)。
これはサブ4〜サブ3.5のペース帯(5:40〜5:00/km)で走る市民ランナーにとって、プライオメトリクスが適切なアプローチである可能性を示しています。
4種類の整理表
| 種類 | 動きのイメージ | 走動作での役割 | ランニングエコノミーへの効果 | エビデンスレベル |
|---|---|---|---|---|
| エキセントリック | 伸びながら力を出す | 着地(ブレーキ) | ✅ 効果あり | 中程度(複数研究の分析) |
| コンセントリック | 縮みながら力を出す | 蹴り出し(アクセル) | ❌ 単独では効果限定的 | 中程度(複数研究の分析) |
| アイソメトリック | 長さを変えずに力を出す | 姿勢維持(ロック) | △ 複数研究分析では有意差なし | 弱い(複数研究分析で否定的) |
| プライオメトリクス | 素早く伸ばされて縮む | 腱のバネ・接地効率 | ✅ 低速域で効果あり | 中程度(複数研究の分析) |
マラソンで足がつるとのつながり
以前の記事でフルマラソンの筋疲労を野球の継投に例えました。遅筋MU(先発陣)が枯渇すると速筋MUが早期動員され、痙攣が起きやすくなるというメカニズムです。
4種類の補強はこの文脈でいうと:
- エキセントリック:先発・中継ぎ投手の長いイニングを投げ続ける耐久力を高める。特定の筋が早期枯渇しにくくなる
- プライオメトリクス:「球数を減らす」効果。腱の弾性エネルギーを使って筋肉への直接負荷を軽減する
- アイソメトリック:フォームの崩れを防ぐ「試合運び」の安定化。体幹が安定すると末梢への余計な負荷が減る
- コンセントリック単独:効果は限定的だが、エキセントリックと組み合わせることで補助的な役割
著者の実践データ
2025-2026シーズンから週2回の補強を導入しました。
メニューの主軸はエキセントリック系です。カーフレイズ(膝曲げ・膝伸ばしの2種、ゆっくり踵を下ろす)、ルーマニアンデッドリフト(片足・自重)、コペンハーゲンプランク、ブルガリアンスクワット、ヒップリフト(片足)。
導入前後で確認できた変化は2つです。
ひとつは攣り部位の移行。
| シーズン | 主な攣り部位 |
|---|---|
| 〜2024 | 大腿四頭筋・ハムストリング・全身伝播 |
| 2025-2026(補強後) | 下腿(ヒラメ筋・腓腹筋・前脛骨筋)中心 |
補強によってハムストリングと大腿四頭筋の耐久性が上がり、その分の負荷が相対的に弱かった下腿に移った可能性があります。ただしこれは1レースの観察にすぎず、因果関係を主張できる根拠としては弱い。複数シーズンのデータが揃ってから改めて評価したいと思っています。
もうひとつは発症距離がわずかに延びたこと。
つくば2018の33km→板橋2026の34km、という変化は走力の差や条件の違いがあるため補強だけの効果とは言い切れませんが、傾向として閾値距離が延びているデータと整合します。
「これで完全に攣りが解決した」とは言えません。ただ、補強の方向性として「エキセントリック系・特定筋の強化」は体感としても正しそう、というのが現時点の評価です。
具体的なメニュー例
4種類ごとに、マラソンランナーに特に有効と思われる種目を1〜2個ずつ挙げます。
エキセントリック
片脚カーフレイズ(エキセントリック)
両脚でかかとを上げ→片脚でゆっくり5秒かけて下ろす。ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)の着地衝撃吸収能力を直接鍛える。週2回・3セット×10回。
スクワット(ゆっくり下げ)
3〜5秒かけてゆっくり腰を落とし、2秒で立ち上がる。大腿四頭筋・大臀筋のエキセントリックを重視した動き。週2回・3セット×8〜10回。
アイソメトリック
プランク(体幹安定)
30〜60秒のホールド。体幹が安定することで末梢筋への余計な負荷を軽減する。フォーム維持の基盤として。週2〜3回。
片脚スクワット静止
膝を曲げた状態で3〜5秒静止。股関節・体幹の安定強化。週2回・左右各3セット。
プライオメトリクス
ボックスジャンプ・バウンディング
着地の衝撃を腱で吸収する感覚を身につける代表的なプライオメトリクス。週1〜2回・3セット×8〜10回。
ポゴジャンプ(アンクルホップ)
なるべく膝を曲げずに両足でその場でピョンピョン跳ねるジャンプ。ボックスジャンプより場所を選ばず取り入れやすい。個人的にはこちらを実際のメニューに組み込んでいます。週1〜2回・3セット×20〜30回。
流し・ドリル(走練習の一部として)
100〜150mの流しを週2〜3回。接地時間を短くする意識で走る。CVトレーニングの締めに組み込むのが効率的です(吐くまで追い込まない練習参照)。
まとめ
4種類を整理すると、マラソンランナーにとっての優先順位はこうなります。
最優先:エキセントリック系の高負荷筋トレ
着地衝撃吸収能力と腱スティフネス向上に最もエビデンスが強い。特定筋の早期枯渇を防ぐ効果が期待できる。
次点:プライオメトリクス
腱のバネを鍛え、筋肉が直接受ける負荷を軽減する。遅めのペース帯(5:00/km以上)ではランニングエコノミーへの効果が複数の研究をまとめた分析で確認されている。
補助的に:アイソメトリック
体幹安定・フォーム維持の基盤として有用。ランニングエコノミーへの直接的な効果は複数研究のまとめ分析で確認されていないが、練習負荷が高い時期の代替手段としての実用的な価値はある。
単独では非効率:コンセントリック中心の中負荷筋トレ
エキセントリックとセットで行えば意味があるが、中負荷での「とりあえず筋トレ」はランニングエコノミーへの効果が限定的。
補強で「何かが変わった感触」がある時、それはどの種類のトレーニングがどの局面に作用しているかを把握できると、次の手が打ちやすくなります。
自分の2025-2026シーズンのデータを見ながら、来シーズンはエキセントリックをさらに片脚化・重量増で追い込む予定です。結果はまたここで報告したいと思います。
※ トレーニングには個人差があります。怪我や体調に応じて無理なく取り入れてください。

