マラソンで足がつる本当の原因|電解質補給では防げない理由を最新の学説と30レース超の経験・データで解説
読了時間: 約12分 / 対象: マラソン後半に足がつって悩んでいるランナー
レース後半、塩タブレットを飲んでいるのに足がつる。 スポーツドリンクをきちんと補給しているのに、やっぱりつる。
そういう経験をしたことはないでしょうか。
自分はしょっちゅうあります。34回のフルマラソンのうち、30回以上で足がつっています。
このテーマについては、以前から何度か記事にしてきました。 運動生理学的な研究をまとめたもの、 その後に出た新しい論文を紹介したもの。 それぞれ書いた時点での情報をまとめてきましたが、 今回はそれらを整理し直した上で、34レース分の経験とデータという新しい素材も加えて、 改めて「自分にとってのEAMC(運動誘発性筋痙攣)」をまとめてみたいと思います。
※ 個人差があります。詳しくは医療機関へご相談ください。
「電解質不足が原因」は本当か
なぜこの説が広まったのか
マラソンで足がつる原因として、いまも広く信じられているのが 「脱水・電解質不足説」です。
汗をかくとナトリウムやマグネシウムが失われる。 その不足が筋肉の誤作動を引き起こして痙攣になる。
この説が広まった背景には、経験則的な観察の積み重ねがあるようです。暑い時期に長時間運動した後に足がつりやすい、という事実はたしかに存在するので、 「汗=電解質損失=痙攣」という因果関係が直感的に受け入れられやすかったのでしょう。
研究が示す意外な結論
ところが、研究を追っていくと話は単純ではありません。
ケープタウン大学のSchwellnus教授らをはじめとする複数の研究チームが、 痙攣を起こした選手と起こさなかった選手の血中電解質濃度を比較したところ、 両者の間に有意な差は見られなかったという結果が繰り返し報告されています (Schwellnus MP et al., British Journal of Sports Medicine, 2004 ほか)。
さらに、Miller KC et al.(Journal of Athletic Training, 2022)の エビデンスに基づくレビューでは、脱水・電解質不足説を支持する研究の多くが 「事例報告や観察研究どまりであり、因果関係を示す実験的証拠に乏しい」 と結論づけています。
もうひとつ見逃せない事実があります。
痙攣が起きた筋肉をストレッチすると症状が和らぐ、という現象です。 もし原因が血中の電解質バランスにあるなら、 局所的なストレッチでその場で改善するのは説明がつきにくい。 この観察もまた、別の原因を示唆しています。
「電解質補給で痙攣は防げない」というのは、 現時点での研究の大勢が向いている方向です。 ただし、熱中症予防として水分・電解質を補給すること自体は 引き続き推奨されています。目的が違う、ということですね。
現在最も有力な説:神経筋疲労による制御異常
電解質説に代わって、現在最も支持されているのが 「神経筋制御の異常説」です。
名前だけ聞くと難しそうですが、仕組みを一つずつ追っていくと 「なるほど、自分のあの感覚はこれか」と思える話だと思います。
脳から筋肉への指令経路
まず、筋肉が動く仕組みの基本から確認します。
図1|脳から筋肉への指令経路
脳からの指令は「運動単位ごと」に出される。1つのMUが動くと、そこに含まれる筋繊維が一斉に収縮する。
脳・脊髄・運動単位(MU)の基本構造
筋肉を動かすとき、脳から「動け」という電気信号が出ます。 その信号は脊髄を通り、背骨の中を走る神経の束を伝わって筋肉に届きます。
この経路を担う神経細胞を α運動ニューロン(アルファ運動ニューロン)といいます。 このα運動ニューロンが過剰に興奮した状態になると、 筋肉が「まあ落ち着けや」という命令を無視して収縮し続けるわけですね。 それが痙攣の正体です。
1本の神経が束ねる「運動単位」とは
ここで「運動単位(MU:Motor Unit)」という概念を押さえておきます。
α運動ニューロン1本は、複数の筋繊維をまとめて支配しています。 この「1本のニューロン+それが支配する筋繊維群」をひとまとまりで 運動単位(MU)と呼びます。
脳からの指令は「運動単位」に対して出されます。 つまり、ひとつのMUが動けば、そのMUに含まれる筋繊維が一斉に収縮する、 という仕組みです。
収縮(ちぢめ!)と弛緩(ゆるめ!)の綱引きが崩れる
図2|収縮と弛緩の綱引きが崩れる
α運動ニューロンが過剰興奮し、筋肉が意思に反して収縮し続ける。これが痙攣
(Nelson NL & Churilla JR, Journal of Human Kinetics, 2016 をもとに作図)
筋肉の収縮は、脳からの「動け」という信号だけで制御されているわけではありません。 筋肉の中には、収縮を調節するための2種類のセンサーが内蔵されています。

筋紡錘=収縮側の安全装置
筋紡錘(きんぼうすい)は、筋肉の中にあるセンサーです(図の左側、筋繊維の絵の真ん中にある”Muscle Spindle”と示された部分)筋肉が急に伸ばされたとき「縮め」という収縮命令を出します。 筋肉が伸びすぎて断裂しないための安全装置のような働きです。
ゴルジ腱器官=弛緩側の安全装置
一方、筋肉と骨をつなぐ腱の部分にはゴルジ腱器官があります(図の右側、白く表現された腱にある”Golge Tendon Organ”と示された部分)。 腱への負荷が過剰になりそうなとき「緩めろ」という弛緩命令を出します。 こちらは腱が切れないようにするための安全装置です。
通常は、この収縮命令と弛緩命令が綱引きのようにバランスを保っているので 筋肉はスムーズに収縮・弛緩を繰り返せます。
疲労で安全装置の綱引きが崩れる
ところが筋肉が疲労してくると、このバランスが崩れます。
筋紡錘からの収縮命令は強くなり、 ゴルジ腱器官からの弛緩命令は弱くなる。
綱引きで弛緩側が力尽きて、収縮側が一方的に引き続ける状態です。
その結果、α運動ニューロンが過剰に興奮し、 筋肉が自分の意思に反して収縮し続けます。これが痙攣のメカニズムです (Nelson NL & Churilla JR, Journal of Human Kinetics, 2016)。
ストレッチが痙攣に有効なのも、この説で説明できます。 筋肉を伸ばすことでゴルジ腱器官への張力が増し、 弛緩命令が回復するからです。
30以上のレースのデータで見えてきたこと
ここからは自分の話です。なぜこの安全装置の崩壊がいつも起こってしまうのか。
2011年の初マラソンから2026年の板橋Cityマラソンまで、34回のフルマラソンを走ってきた中で蓄積してきたデータを改めて横断的に整理してみました。
研究ではなく個人の観察記録なので、因果関係を主張できるものではありませんが、「パターンとして見えてくるもの」はいくつかあります。
発症距離は32〜35kmに集中する
ラップデータが残っている14レースを分析すると、 攣りが発症した距離は以下のように分布しています。
| レース | 発症距離 | 巡航ペース | ピッチ |
|---|---|---|---|
| つくば2018 | 33km | 4:15/km | 178spm |
| 勝田2019 | 32km | 4:11/km | 184spm |
| 湘南2022 | 33-35km | 4:53/km | 172spm |
| さいたま2024 | 34km | 4:56/km | 171spm |
| 板橋2026 | 34km | 4:54/km | 181spm |
| (湘南2024) | (28km) | (5:10/km) | (161spm) |
| (TC2026) | (39km) | (4:56/km) | (179spm) |
湘南2024(28km)とTHE CHALLANGE RACE 2026(39km)を除くほぼ全レースで、 32〜35km付近に集中しています。
ペースが全盛期(4:10台)から復活期(4:50台)まで大きく変わっても、 発症距離はさほど変わらない。これは「一定の筋疲労が蓄積した時点で閾値を超える」 という神経筋疲労説と整合しています。
湘南2024の早い発症(28km)は練習量が不足していたこと、かつピッチが161spmと全レース最低だったことと、TC2026の遅い発症(39km)はペースを抑えていたことと関係している可能性があります。ただしいずれも推測の域を出ません。
速くても遅くても攣る——神経の「過敏さ」という個人差
全盛期(2018-2019)のPBは2:58:19、復活期(2022-2026)は3:34〜4:06台。 ペースにして1分/km以上の差があるにもかかわらず、 どちらのシーズンでも後半に足が攣っています。
一方で、周りを見渡すと、走力に関わらず「ほとんど攣ったことがない」 というランナーも一定数います。
「走力問わず、攣る人は攣る、攣らない人は攣らない」というのが経験則で感じていることです。
研究でも、過去に痙攣歴がある人はない人に比べて攣りやすい、という一貫した知見があります(Nelson NL & Churilla JR, Journal of Human Kinetics, 2016)。「攣りやすさ」には個人差があり、 痙攣を引き起こすのに必要な刺激の大きさが人によって異なることが示されています。 これは筋肉の強さの問題ではなく、神経系が誤作動を起こしやすいかどうかの個人差、いわば「神経の過敏さ」の違いだと考えられています。
過去のレースで攣り続けてきた自分の事例も、この個人差という観点と整合します。速くても遅くても、練習量が多くても少なくても、一定の筋疲労が蓄積すれば攣るというパターンが繰り返されてきた。
もうひとつ気になっている仮説があります。攣りの経験を重ねるほど、神経がその誤作動パターンを「記憶」してしまい、疲労が蓄積するレース終盤でお約束のように発症するようになっているのではないか、ということです。 これはまだ個人的な仮説の域を出ませんが、自分の感覚とは重なる部分があります。
「何をやっても攣る」と感じているランナーには、 こうした神経系の個人差という観点を念頭に置いた上で 対策を考えていく方が現実的かもしれません。
攣らずに完走できたレースの共通点
34レース中、攣らずに完走できたレースが4つあります。
| レース | タイム | 攣りなし要因(推測) |
|---|---|---|
| 勝田2017 | 3:19:52 | HR150台キープ・ネガティブスプリット走 |
| 別大2018 | 3:08:42 | 超イーブンペース(4:26〜4:30)・低気温 |
| ロング走(フル) 2020 | 3:19:14 | 信号停止による定期的な休息 |
| 湘南2023 | 3:45:34 | HR145bpm(全レース最低)・トイレ2回・エイドでストレッチ |
共通しているのは「心拍の抑制」か「定期的な筋のリセット機会」のどちらか、 あるいはその両方です。
特に興味深いのはロードでフルマラソンの距離を走った2020年のロング走。 走行中、信号待ちで何度も止まったことで 意図せず定期的に休息が入るパターンです。 ラスト2.195kmを4:20→4:15→4:05とビルドアップして完走しているので、 筋肉にまだ余力があったことは間違いありません。
定期的に止まることで、MUが周期的にリセットされていたのではないかと思います。 これは仮説ですが、こまめに休憩を取ることで、ロングイニングを粘れたイメージですね。
また参考情報として、ウルトラマラソン(100km超)に出場した時のように、ペースを極端に落として走ると、フルマラソンの距離(42.195km)では 攣ることなく通過できたという実績もあります。「一定以下の強度であれば閾値に届かない」という観察とも整合します。
スピードタイプが特に攣りやすい理由
自分のデータを眺めていて、もう一つ気になる事実があります。
VDOT乖離4.6という数字が示すもの
VDOTとは、ジャック・ダニエルズ博士が開発した 走力を一つの数値で表す指標です (Jack Daniels, Daniels’ Running Formula, 2014)。 簡単に言うと「有酸素能力の総合値」で、 同じVDOT同士なら異なる距離でも同等のパフォーマンスが予測できます。
自分の各距離のPBをVDOTに換算するとこうなります。
| 距離 | PB | VDOT | フル換算等価 |
|---|---|---|---|
| 5000m | 17:23(2019/9) | 58.7 | 約2:46相当 |
| ハーフ | 1:22:17(2019/11) | 56.5 | 約2:51相当 |
| フル | 2:58:19(2019/2) | 54.1 |
5000mとフルのVDOT差が4.6。
5000mの走力からすると「2:46で走れるはず」なのに、 実際のフルPBは2:58。12分近い乖離があります。
これは典型的な「スピードタイプ」の特徴で、 短い距離では潜在能力を発揮できるのに、距離が伸びるほど実力を出し切れない構造になっています。
心肺に余裕があっても脚が攣る構造的理由
この乖離が示しているのは、筋繊維の構成比だと考えています。
スピードタイプは速筋繊維の比率が相対的に高い。つまり、遅筋MUの絶対数が持久型ランナーより少ない可能性があります。
心肺系はVDOT58相当の能力を持っているのに、筋系の持久耐性はVDOT54相当しかない。心肺が「まだいける」と言っているが故に、筋肉の方はとっくに疲労困憊状態なのに負荷をかけてしまう。これが「心肺に余裕があっても脚が攣る」という毎レース繰り返してきた現象の構造的な説明として、 今のところ最も納得感があります。
ただしこれは観察と推測の組み合わせで、 体質的な速筋・遅筋比率を直接測定したわけではありません。 あくまで「仮説として整合性が高い」という話です。
MUの使い切り = 継投総力戦の限界
最近はこの仮説を野球のアナロジーで考えています。
筋肉を動かすとき、すべてのMUが同時に動いているわけではありません。 複数のMUが順番に動員されながら、休憩を挟んで交代しています。
野球で例えると、延長42回(≒ 42km)・継投前提の総力戦のようなイメージです。 最初から長丁場が決まっているので、先発陣(遅筋MU)でできるだけ ロングイニングを繋ぎ、疲れてきたら中継ぎ・抑えと交代しながらチームとして試合を乗り切ります。※以降、イニング(回)≒ kmとして例えます。
このロングイニングを担うのが主に遅筋MU(持久力に優れた筋繊維)です。
普通の人:先発陣が多く、継投が機能している状態
普通の人のチーム構成のはこんなイメージ。
| タイプ | 投球可能イニング | 人数 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 先発 | 8回 | 4人 | 32回 |
| 中継ぎ | 2回 | 3人 | 6回 |
| リリーフ | 1回 | 3人 | 3回 |
この分担で41回なのであと1回ぐらいならば、なんとかなりそうですね。
攣りやすい人:そもそも先発陣が少ない
ところが攣りやすい人の場合、そもそもこの先発陣の頭数が少ないのです。
チーム構成はこんなイメージ。
| タイプ | 投球可能イニング | 人数 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 先発 | 8回 | 3人 | 24回 |
| 中継ぎ | 2回 | 3人 | 6回 |
| リリーフ | 1回 | 4人 | 4回 |
こんなチーム構成だと、30回ぐらいで先発、中継ぎ共に使い切ってしまいますね。
そこで呼び出されるのがリリーフ陣(速筋MU:瞬発力はあるが持久力が低い筋繊維)。 とはいえ、速筋MUはいわば抑え専門の投手で、 1イニング「なら抑えられますが、長いイニングを任せるのには向いていません。
なので、34回ぐらいでリリーフ陣(速筋MU)も限界を迎えてしまいます。そうなると、α運動ニューロンが過剰興奮を起こしやすくなり、 先ほどの安全装置の綱引きのバランス崩壊が一気に進んでしまうというわけです。
こうなったらもうおしまい。残りは野手を投入するような消化試合位になってしまうわけですね。
まとめ:「電解質説」から「神経筋疲労説」へ
マラソンの足攣りについて、現時点での整理をまとめます。
- 脱水・電解質不足説は、エビデンスとしては弱い
- 現在最も支持されているのは神経筋疲労による制御異常説
- 収縮命令(筋紡錘)と弛緩命令(ゴルジ腱器官)の綱引きが崩れることが痙攣の正体
- MUの動員パターンが偏ると特定のMUに負荷が集中し、速筋MUの早期動員につながる
- 攣りやすさには神経系の個人差がある(神経の過敏さ)
- スピードタイプは遅筋MUの絶対数が少なく、構造的に攣りやすい可能性がある
結局のところ「原因が完全に解明されていない」というのが 2026年時点での状況です。
ただ、「わからない」で終わらずに 自分のデータと研究を照らし合わせながら考え続けること。 それがこのブログのテーマでもあります。
来シーズンの秋のマラソンで「攣らず完走実験」を予定しているので、その結果もまたここで報告したいと思います。
では、具体的な対策については続きの記事で整理しています。
→ マラソンで足がつる対策まとめ|特効薬はないけれど、できることはある
※ 健康・医療に関する内容です。個人差があります。 詳しくは医療機関へご相談ください。
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