マラソンでスピードタイプが伸び悩む理由|遅筋・速筋の違いから考える

調べてみた

読了時間:約8分 / 対象:タイム短縮を目指す中級ランナー

この記事でわかること

  • TypeI・IIa・IIxの違いと、マラソンにおける役割
  • 「ハーフは速いのにフルが遅い」を筋繊維で説明してみる
  • IIx→IIa変換は本当に起きるのか、起きるとしたら何をすればいいのか

ハーフは走れるのに、フルになると急に失速する

ハーフマラソンとフルマラソンの自己ベストを見比べると、「等価タイム(ハーフのタイムから換算したフルの予測タイム)よりも実際のフルタイムが大幅に遅い」というランナーが一定数います。自分もそのひとりです。

自分の場合、5000mのVDOT(有酸素能力の指標)が58.7、ハーフが56.5なのに対し、フルは54.1しかありません。5000mとフルの差は4.6もあります。フルの等価タイムに換算すると、5000mのVDOTなら約2時間46分相当の走力があるはずなのに、実際のフルベストは2時間58分です。12分以上のギャップがあるわけです。

VDOT(ブイドット)は、名ランニングコーチのジャック・ダニエルズ博士が提唱した最大酸素摂取量を数値化したものだ二ャ

これはいわゆるスピードタイプの特徴で、距離が長くなるほど潜在能力を発揮しにくい構造になっています。なぜそうなるのか、筋繊維タイプという観点から調べてみました。


筋繊維には大きく3種類ある

骨格筋の繊維は、収縮速度や疲労耐性の違いによって、ざっくりと3種類に分類されます。

A. 繊維束のイメージ(縦断面)longitudinal
Type I
遅筋
細い・赤色
疲れにくい
Type IIa
中間筋
中程度の太さ
ピンク色・適応しやすい
Type IIx
速筋
太い・白色
瞬発力が高い
実際の筋肉
(混在)
3タイプが
混ざっている
Type I(遅筋)
Type IIa(中間筋)
Type IIx(速筋)

※繊維の太さは模式的な表現です。実際の比率・サイズとは異なります。

B. 筋肉の断面図イメージ(横断面)cross-section
一般的な市民ランナーのイメージ(模式) Type I遅筋 約45% Type IIa中間筋 約40% Type IIx速筋 約15%

※比率は文献上の一般的な目安です。個人差・筋肉部位によって大きく異なります。速筋(白)は断面積が大きく、遅筋(赤)は小さめに描いています。

TypeI(遅筋)は収縮速度が遅いものの、酸素を使って長時間にわたってエネルギーを作り続けられます。エネルギーの生産工場であるミトコンドリアが豊富で、疲れにくいのが特徴です。マラソンのような長時間の持久運動との相性が良く、長距離のトップ選手には多い繊維タイプだとされています。

TypeIIa(中間筋)は速筋と遅筋の中間的な性質を持ちます。有酸素・無酸素の両方のエネルギー系を使えるため、中距離から長距離まで幅広い運動に対応できます。筋トレやマラソントレーニングで最も鍛えやすい繊維とも言われています。

TypeIIx(速筋)は最も速い収縮速度と最大の瞬発力を持ちますが、ミトコンドリアが少なく酸素を効率的に使用できないため、数秒〜十数秒で疲弊してしまいます。短距離走や瞬発系スポーツとの相性は抜群ですが、長距離には向いていません。

これまでは、この3種類の比率は先天的な影響が大きく、生まれつきの素質がある程度タイプを決めているとされていました。ただし、あとで触れるように「ある程度は変えられる」という話もあります。


スピードタイプがフルで苦しむ理由

TypeIIxやIIaの比率が高いスピードタイプのランナーは、短距離や中距離では本領を発揮しやすい一方、フルマラソンではスピードタイプならではの課題があります。

まず、速筋繊維はグリコーゲン(糖質由来のエネルギー)への依存度が高い傾向があること。「酸素を使ってエネルギーを作る効率」が低いため、脂肪を燃やすよりも、素早くエネルギーに変換できる糖質を優先的に使おうとすると考えらています。しかし、体内の糖質の貯蔵量には上限があるため、後半にいわゆる「ガス欠」が起きやすくなる可能性があるようです。

次に、神経筋疲労が早く訪れる可能性があること。速筋繊維は大きな力を出せる反面、疲労耐性が低く、繰り返しの収縮によって筋肉とそれを司る神経が疲弊しやすいと考えられています。自分の場合、34レース中30レース以上で攣りが発生していますが、これも神経筋疲労と無縁ではないと思っています

スピードタイプの筋繊維の使われ方のイメージを野球のピッチャーに例えた記事はこちら二ャ

こうして見ると、「心肺には余裕があるのに脚が攣る」という私の特徴は、筋繊維の特性からも来ているのかもしれません。


IIx→IIa変換は本当に起きるのか

では、トレーニングによってTypeIIxをTypeIIaに変えることはできるのでしょうか。調べてみると、この変換については比較的一貫したエビデンスがあるようです。

Plotkin et al.(2021)のレビューによると、IIa/IIxのハイブリッド繊維(2種類の性質を持つ中間的な繊維)は、持久系・筋トレ・スプリント系いずれでも起きる傾向が報告されています。持久系トレーニングでも筋トレでも、刺激が入れば変換は起きる。変化の大きさは頻度と量に依存し、より多くトレーニングするほど変化が大きいとのこと。またIIaへの変換が進むとともに、その繊維内のミトコンドリアも増えて、酸素を活用したエネルギー生産能力が上がっていくとも言われています。

ひとつ補足しておくと、純粋なTypeIIxは実は非常にまれとされています。「IIxが多い」と言われるスピードタイプのランナーでも、多くはIIa/IIxハイブリッドが多いという状態である可能性が高いようです。

なお、TypeIとTypeIIの間での変換については、持久系トレーニングでTypeIIからTypeI方向へのシフトが起きるという報告はあるものの、逆方向の変換のエビデンスは現時点では限定的とされています。


では何をすればいいのか

トレーニングの種類によって、筋繊維への影響の方向が異なります。この点を整理しておくと、スピードタイプのランナーが何をすべきかが見えてきます。

Plotkin et al.(2021)のレビューでは、高負荷低速度の筋トレやスプリント・パワートレーニングがIIx/IIaハイブリッドを純粋なIIaへと変換させる傾向が報告されています。ランナーが行う補強トレーニングもこれに近い位置づけとして、同じ方向に働く可能性があります。

筋トレについては『マラソンランナーのための筋トレ4種類』でも書いてる二ャ

ただしスプリント・パワートレーニング(高速度)はIIaが増加する一方でTypeIが減少する方向に動く可能性もあるとされています。

そういう意味では、個人的に注目しているのが、CVトレーニング(クリティカルベロシティ)です。ランニングコーチでもあり研究者でもあるTom Schwartz(Tinman)が提唱したこの練習は、TypeIIa繊維を長距離向けに機能させることを明確な目的として設計されています。

CVペースはVO2maxの約90%、感覚的には30〜35分のレースで維持できる強度に相当します。このペース帯でインターバルを積み重ねることで、IIa繊維が有酸素系を効率よく使えるようになる、つまりTypeI的な持久特性を獲得できるという考え方です。

走行量で土台を作りながら、筋トレやCVペースでIIaを長距離向けに鍛える。この2軸が、私のようなランナーがフルマラソンで戦う上での具体的な方向性になりそうです。

実は、遺伝子検査では「持久タイプ」だった

興味深い話をひとつ付け加えておきますと、以前、スポーツ遺伝子検査を受けたことがあるのですが、結果は「持久タイプ」でした。

自分のレースデータを見ると明らかにスピードタイプの特徴を示しているのに、遺伝子検査では持久タイプ。遺伝子検査が正しくないのか、後天的にスピードタイプになっていったのか。正直まだうまく整理できていません。

走り続けることが、一番の答えだと思う

いずれにせよ、練習次第で一部変えようはあるという意味では、Plotkin et al.(2021)のレビューは希望のある話ではあります。

地道に走行量を増やし、神経筋への刺激を続けていく。それが結局のところ、スピードタイプがフルマラソンで戦える身体に近づく一番の道なのかなと、今は思っています。


※本記事の内容は個人の調査・体験に基づくものです。個人差がありますので、トレーニングの実施にあたっては体調に応じてご判断ください。


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