吐くまで追い込まない練習|CVトレーニングとは

トラックを走っている人 トレーニング

読了時間: 約10分 / 対象: インターバル練習の強度設定に迷っているマラソンランナー

「練習でちゃんと追い込んでいるのに、レースで伸びない」

そういう経験はないでしょうか。

自分の全盛期(コロナ禍直前のシーズン)がまさにそれでした。5000mやハーフマラソンのベストを更新できたシーズンでも、フルマラソンのベストが更新できない。スピード練習ではオエッとなるくらいオールアウトするまで追い込んでいたのに、42kmになると失速する。

追い込む方向性が間違っていたのかもしれない、と気づかせてくれたのがCVトレーニングという考え方でした。


CVペースとは何か

Tom Schwartzの定義

CVトレーニングは、アメリカのコーチTom “Tinman” Schwartzが体系化したトレーニング方法です。

Schwartzはウィスコンシン大学ラクロス校でアシスタントコーチを務め、その後Tinman Elite(エリートランニングチーム)を設立。Drew Hunter(アメリカ代表)、Sam Parsons(ドイツ代表)など複数の選手を世界選手権標準記録突破に導いたコーチとして知られています。

Schwartzが定義するCVペース(Critical Velocity)はシンプルです。

「30分間維持できる、ややきつい練習ペース」

Tom Schwartz, Critical Velocity Training, 2016

より具体的には「VO2maxの約90%」に相当し、スピードの観点でいうと「Tペースよりやや速く、Iペースよりやや遅い」ゾーンに位置します。

ダニエルズの強度帯との関係

ジャック・ダニエルズの強度帯に親しんでいるランナー向けに整理すると、CVはこの位置にあります。

強度帯相当ペース(目安)維持可能時間
Eペース(イージー)フルペース+1:00前後制限なし
Tペース(閾値)フルペース+0:20前後約60分
CVペース10kmレースペース前後約30〜35分
Iペース(インターバル)5000mレースペース前後数分
Rペース(レペティション)マイル〜1500mペース短距離

自分の感覚的な定義

数字だけ見るとわかりにくいので、自分なりの表現を加えると:

「練習前に憂鬱にならない程度の設定」

Iペースのインターバルは、正直なところ練習日の朝から少し憂鬱です。「今日あれをやるのか」という感覚。でもCVは違います。「これぐらいなら、まあやれるな」という気持ちで出られる感覚。

Schwartzも次のように表現しています。

「CVワークアウトはそれほどきつくないが驚くほどの効果がある」

— Tom Schwartz, LetsRun.com, 2016


なぜ吐くまで追い込まなくていいのか

Iペース(インターバル)の代わりにCVペースを取り入れる理由は、大きく3つあります。

1. 追い込みすぎると量がこなせない

インターバル練習で「速ければ速いほど良い」は正しくありません。理由はシンプルで、ペースが速すぎると本数がこなせなくなるからです。1000m×10本を5000mのレースペースでやろうとすれば、最後まで維持するのは相当きつい。追い込んだ日は翌日以降も疲労が残り、練習の密度が全体的に下がってしまいます。

2. VO2Maxの「頭打ち」による非効率

以前、インターバルの設定ペースに関する記事でも触れましたが、運動強度を上げていっても一定の強度でVO2Max(最大酸素摂取量)に達し、酸素の摂取量は頭打ちになります。

つまり、必要以上に速く走って「オエッ」となるまで追い込んでも、有酸素運動としての効果はそれ以上上がりません。それどころか無酸素のエネルギーを使って急速に疲労し、結果的に「VO2Maxに達した状態で走れるトータル時間」が短くなってしまうという本末転倒な事態に陥ります。

3. オールアウトが鍛えるのは「違う筋繊維」

強度の問題だけでなく、「鍛えられる筋繊維」も異なります。限界まで追い込むと、VO2maxペースを超えてType IIxの純粋な速筋繊維を主に使うことになります。Type IIxは爆発的な力を出せますが、持久力は最も低い。

フルマラソンに必要なのはType IIxではなく、Type IIa(中間型の速筋繊維)です。CVペースはこのType IIaを集中的に鍛えるゾーンに相当します。

全盛期にオールアウトするほどのインターバルをやっていたのに、フルマラソンで伸び悩んでいた理由がここにある気がしています。追い込むことでType IIxは鍛えられていたかもしれないが、フルに必要なType IIaへのアプローチが足りなかった、という仮説です。


閾値走(T)、CV、インターバル(I)の比較

閾値走(LT走)も自分のブログで効果を実証しているトレーニングであり、引き続き有効だと考えています。

では、Tペース、CVペース、Iペースは何が違うのか。「ターゲットとする筋繊維」と「マラソンへの効果」の観点で表にまとめました。

項目閾値走
(Tペース)
CVペースインターバル(Iペース)
維持可能時間約60分(ハーフペース)約30〜35分(10kmペース)数分(5000mペース)
主な目的乳酸処理能力の向上とLT(閾値)の押し上げ筋Type IIa(中間型速筋)の持久力向上最大酸素摂取量(VO2Max)の向上
ターゲット筋繊維遅筋(Type I)中間筋(Type IIa)速筋(Type IIx / IIa)
野球の継投に例えると先発投手のスタミナ底上げ(球速維持)中継ぎ陣のロングリリーフ強化抑えの強化(出番は少ないが、守護神の「球速Up」がチーム全体に波及効果)

以前マラソンで足がつる本当の原因という記事で、フルマラソンの筋疲労を野球の継投に例えました

スピードタイプのVDOT乖離(全盛期の5000m: 58.7 vs フル: 54.1)の構造的な問題は、「Type IIa(中継ぎ陣)が速く枯渇しすぎる」ことにあります。TペースはType I(先発)を強化しますが、Type IIaへの直接的な刺激としてはCVペースの方が理論上は効きやすいのです。

一方、Iペースは強力な抑え投手(Type IIx)を育てますが、延長42回のフルマラソンにおいて、彼らが出番を迎えるのはゴール手前のわずかな距離だけです。

「閾値走をやり込んだのにフルが伸びなかった」
全盛期の自分への答えとして、今はそう解釈し、Iペースの代わりにCVペースを取り入れるアプローチを採用しています。


CVトレーニングの実践と設定ペース

基本セッション

Schwartzが推奨する代表的なワークアウトです。

セッション①(標準)

5〜7 × 1000m @ CVペース
インターバル: jog 200m(約90秒)
締め: 5 × 200m @ マイルペース(速めのストライド)

セッション②(入門)

12 × 400m @ CVペース
インターバル: 90秒ジョグ

ポイントは2つです。ひとつはインターバルが短めであること。CVペースは比較的余裕があるので、200mのジョグで十分回復できます。もうひとつは締めに速いストライドを入れること。CVだけではスピードが落ちるため、脚神経を維持する目的で短い全力走を添えます。

現在の自分の設定(VDOT乖離をどう評価するか)

「現在の走力に基づいてペースを設定する」のが大原則ですが、ここでも自分の「スピードタイプ特有のVDOTの乖離」が顔を出します。

直近の板橋City2026(3:34:02)のフルマラソンタイムをベースにすると、VDOTは約43.5となり、CVペースの目安は4:20〜4:25/kmになります。

しかし、直近のポイント練習ではTペース走(4:20/km)を余裕を持ってこなせており、4:20/kmはVDOT49のTペースに対応します(テーブルから逆引き)。

この「フルタイム(VDOT43.5)」と「Tペース(VDOT49)」の大きな乖離こそが、まさに「心肺は余裕があるのに、脚(Type IIaの持久力)が持たずに後半失速している証拠」です。

今回は、フルマラソンの結果に引っ張られず、現在確実にこなせている「Tペース(4:20/km)」の実力を基準に、VDOT49としてCVペースを算出します。

参照タイム/ペースVDOT換算対応CVペース(目安)対応Iペース
Tペース 4:20/km約494:05〜4:10/km3:50/km

Tペースからキロ10〜15秒ほど速いペースがCVの目安になります。(※本来、一般的なダニエルズの表ではTとCVのペース差はキロ5〜8秒程度ですが、スピードタイプの場合は距離が短くなるほどVDOTの数値が跳ね上がるため、この差が大きくなる傾向にあります)

  • 典型セッション例: 5 × 1000m @ 4:08/km(jog200m回し) + 5 × 200m速め

確かにIペースを考えると少し憂鬱になりますが、4:05〜4:10/kmであれば、かなり気持ちは楽になります。


練習メニューへの組み込み方(Tペースとの共存)

TペースとCVペースはターゲットが異なるため、マラソントレーニングでは両方を実施するのが理想です。Iペースほど疲労が残らないCVの特性を活かし、以下のように1週間のメニュー(マイクロサイクル)に組み込みます。

パターンA:週2回のポイント練習ができる場合
– 水曜日:CVトレーニング(例:1000m×5本)
– 土曜日:Tペース走(例:20分〜30分)またはロング走の中にTペースを組み込む

※CVは回復が早いため、中2〜3日空ければ週末のTペース走やロング走に支障が出にくいのがメリットです。

パターンB:疲労を溜めたくない・週1回ポイントの場合
– 1週目:CVトレーニング
– 2週目:Tペース走

※「隔週」で交互に実施することで、確実に疲労を抜きながら両方の筋繊維(Type IとType IIa)に刺激を入れ続けることができます。

まずはパターンB(隔週)から導入し、身体の適応(とくに疲労の抜け具合)を見ながらパターンAへ移行するのが安全です。


まとめ

CVトレーニングを一言で言えば、「追い込まずにType IIaを鍛える練習」です。

吐くまで追い込む必要はありません。それどころか、追い込みすぎると無酸素運動になり、鍛えたい筋繊維(Type IIa)に十分な有酸素刺激が届かないことになります。

スピードタイプのランナーにとって、フルマラソン後半の失速や攣りの根本原因のひとつは「中継ぎ陣(Type IIa)の持久力不足」であり、CVトレーニングはそこへの直接的なアプローチになると考えています。

自分自身、全盛期にこの考え方を知っていたら、フルのVDOT乖離はもう少し縮まっていたかもしれない。それが今シーズンからCVを導入しようと思った理由です。

今秋出場予定のレースでの検証結果も、またここで報告したいと思います。


※ トレーニングには個人差があります。怪我や体調に応じて無理なく取り入れてください。


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