「追い込めた=いい練習」は間違いだった| No-man’s landにはまった1年間のデータ

Aligned wooden blocks spelling 'Goals' symbolize target achievement and ambition. トレーニング

読了約6分/マラソンのタイム更新を目指して練習しているランナー


苦しい練習をこなし続けてきたのに記録が伸びない。そんな経験ありませんか?

私にとっては、サブ3を達成した翌シーズンがそんな年でした。

走力という意味では、自己ベストを更新し続け、5000mは17分23秒まで伸び、ハーフは1時間22分台で更新。ハーフまでの数字だけ見れば「最高の1年」だったようにも見えます。

それでも、フルマラソンでは自己ベスト更新どころか、2回目のサブ3すら達成できなかったのでした。

要因としては、走行距離が落ちたというのはあるかと思いますが、振り返ってみると、そもそも練習の目的を見失ってしまっていたのではないかと思います。


「いい練習ができた」とは?

このシーズンも、強度の高いポイント練習は継続していましたし、毎セッションの終わりに「追い込めた」という満足感もありました。

やる前から憂鬱になるような設定ペースでインターバル走を行い、最終本では吐き気を催すほどに最後の力を振り絞ってペースを上げ、オールアウトする。終わった後に「出し切った」達成感が得られた練習を、自分は「いい練習」と呼んでいたと思います。

当時からジャック・ダニエルズのトレーニング理論は読んでいて、E/M/T/I/Rの区分も意識していましたし、『マラソントレーニングの心得』なんていう記事を書いて、目的の大切を偉そうに語っていたりもしましたが、改めて読み返してみると、自分がやっていたことがダニエルズの言う「No-man’s land」にそのまま当てはまっていて、思い当たる節がたくさんありました。

「出し切った感覚」と「目的に合った練習ができた」は、別の話だったわけです。


後から整理すると、問題は2つあった

2019年シーズンのポイント練習を後から整理すると、問題は2つに集約されます。

問題①:全力締めとR走のオールアウト化

シーズンを通じてほぼすべてのポイント練習やレースで、設定ペースを超える加速が終盤に入っていました。

日付セッション加速幅体の反応
5/24300m x 15のラスト1本▲12秒/km
6/7変化走後の追加1000m3:17(R域)
6/13変化走のラスト400m▲12秒/km脚攣り
6/18インターバル走追加1本▲9秒/km以上脚の指攣り
6/2810kmペース走後の追加200mスプリント脚攣り
7/13ハーフペース走のラスト2km▲15秒/km以上脚攣り
7/203000-2000-1000のラスト1000m▲7秒/km
脚の指攣り
7/24400m x 10のラスト1本▲5秒/km
8/93000m TTのラスト1000m▲13秒/km嘔吐
8/218kmペース走後の2000m3:16(R域)脚攣り
9/165000mレースのラスト400m▲5秒/km嘔吐、手の指攣り

加えて、ショートインターバルも本来ならば「フォーム・ランニングエコノミー改善を目的として、しっかりと休息をとりながらRペースで実施する」もしくは「VO2Max向上を目的として、Iペースで実施する」のどちらかであるべきはずものが、「Rペースに近い設定で短めの休息で多くの本数をオールアウトしながらこなす」といった、オールアウト自体が目的化したような目的を見失ったような練習になってしまっていたようです。

これは「オールアウトすることが成果につながる」という思い込みと、出し切った後に得られる達成感の2つが重なっていたからだと思います。

もしかしたら、脳が達成感という報酬を求めるようになってしまい「全力締め→気持ちいい→また次もやる」というループが習慣として固定化していたのかもしれません。

こうして練習で攣るほど追い込んだ履歴を見てみると、疲弊状態で速筋を無理やり動員する神経筋パターンを訓練してしまっていたのではないか、なんてことまで考えてしまいます(推測)。

問題②:強度設定のずれ(No-man’s land)

後半(9〜3月)はM走(マラソンペース走)を取り入れ始めました。ダニエルズはMペースを「フルマラソンのVDOTから設定せよ」と言っています。このシーズンのフルPBは2:58:19(VDOT54.1)なので、Mペースは4:14/km。ところが全11回を確認すると、このペースで走れたセッションは2回しかありませんでした。

分類回数比率
正確なMペース(4:14/km±2秒)2回18%
MとTの間のNo-man’s land(4:00〜4:13/km)9回82%

82%がMより速くT未満の帯域に入っていました。ダニエルズがNo-man’s landと呼ぶ帯域で、疲労コストだけが高く、Mペース走としてもT走としても効果が中途半端になるとされています。

ダニエルズのトレーニング強度ゾーン(Mペース追加) ダニエルズのE/T/I/Rの4ゾーンと、ゾーン間のNo man’s landを示した三角形の図。Mペースを著者加筆。 All out Too fast Reps (レペティション) VO₂max intervals (インターバル走) Threshold — tempo/cruise (閾値走・テンポ走) M(マラソンペース)★ Long — Steady — Easy — Recovery (ロング・イージー・回復走) 70〜75% 楽なペース Race pace > VO₂max About 5K race pace (98〜100%) Comfortably hard (86〜88%) Comfortable (70〜75%) R Fast I Hard T Comfortably hard E Easy ★ M(マラソンペース):ダニエルズが例外的に許容するゾーン。著者加筆。 Jack Daniels, “Running Training: Goals of Training”, CoachesEducation.com (2000) を元に著者加筆

逆に「閾値走(T走)」として実施した3回は、全回がT以上、I未満の域に入ってしまっており、これまたTとしてもIとしても中途半端な練習になってしまっていました。

確かに、「ペースのブレは上振れする分にはむしろいいことでしょ」という考えが根底にあったことは否めません。

目的を見失った顛末

このシーズンは、家族との時間を優先度を上げたこともあり、走行距離が年間3800kmから3200km程度に減ってしまった分、ポイント練習で補おうとしていましたが、どうやら補うどころか間違った方向に進んでしまっていたようです。

結果として、そのシーズンのフルマラソンは2本とも盛大に崩壊して、前シーズに続いてサブ3達成とはならなかったのでした。

問題点①も②も「出し切り正義・上振れ正義」という同じ価値観から来ていましたが、練習で追い込んでも、本番の耐性につながっていたわけではなかった、ということですね。


改めて心に刻むダニエルズ先生の言葉

この練習の目的は何か?」と問われたら、それに対して常に答を出せなければならない。何よりも重要な、この問いに答えられないのなら、その時間は練習しないほうがいい。

–  『ダニエルズのランニングフォーミュラ 第3版』より

コロナ禍を経て、一度リセットされた体を作り直すべく、再始動したわけですが、今度こそジャック・ダニエルズの言葉を心に刻み、オールアウトによる達成感という脳内麻薬の誘惑に打ち勝つべく、練習に取り組みたいと思います。

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