読了時間:約5分 / 対象:ダニエルズ理論を実践しているが効果が出ない・自分の練習強度が合っているか不安な中級ランナー
ダニエルズのトレーニング理論を調べていると、「No-man’s land」という言葉に出会います。日本語にすると「不毛地帯」といったところでしょうか。
これは特定の強度域を指してるもので「その強度で走っても、何も鍛えられない」というかなり強い言い方で、ダニエルズはそこで走ることを「Quality-junk training(質の高いゴミ練習)」とも呼んでいます。
自分自身、2019年のシーズンでまさにこの罠にはまっていたと後から気づきました。この記事では、自分もハマったNo-man’s landとは何かを整理してみたいと思います。
No-man’s landの強度とはどこを指しているか
ダニエルズのトレーニング理論には、強度の異なる5つの練習タイプがあります。遅い順にE(イージー)、MP(マラソンペース)、T(閾値)、I(インターバル)、R(レペティション)です。
No-man’s landはこのうち3か所に存在すると、ダニエルズはCoachesEducation.comに掲載した記事(2000年)のなかで述べています。
- RペースとIペースのあいだ
- IペースとTペースのあいだ
- TペースとEペースのあいだ(ただしMPは例外)
図で見ると、それぞれの練習タイプのあいだに「不毛地帯」が挟まっているイメージです。
ダニエルズが強調しているのは、この帯域で走っても「両側のシステムを同時に鍛えているわけではない」という点です。つまりEとTの間で走ったからといって、有酸素ベースと乳酸閾値の両方が鍛えられるわけではなく、どちらも十分に刺激できていないだけ、ということですね。
ちなみにMPがT-E間のNo-man’s landの例外とされているのは、あくまでマラソンのレースペースに慣れるという明確な目的があるからで、「Non-marathoners can ignore this(マラソンを走らない人は無視していい)」とダニエルズは書いています。目的が明確であればNo-man’s landにはならない、という考え方です。
No-man’s landにハマるパターン
では、No-man’s landで走ってしまうのはどんな時でしょうか。
一番よくあるパターンは、「設定よりもペースが上がることは良いこと」という思い込みかと思います。
私自身の2019年シーズンが特にそうだったと思います。マラソンの自己ベスト更新を目指して、フルマラソンの目標ペース付近で走るMペース走を多く取り入れていましたが、設定ペースを下回らない様にと言う意識が強く働き、結果として設定ペースよりも速く走ることがほとんどでした。その時は、設定を上回って「良い練習ができた」と思っていましたが、今思うとMペースでもなくTペースでもない、目的はなんなのかが曖昧な練習となってしまっていたのかもしれません。
また、インターバル走でも常に「設定を上回って追い込むことは良いことである」という思い込みから、Rペースまでペース上がってオールアウトしてしまい、無駄に疲労を溜めてしまったということが多々ありました。
こうしたNo-man’s landにハマってしまった状況の詳細は、別記事『練習の目的を見失うとどうなるか』にまとめてあります。
なお、ハーフマラソンのレースペースもMペース以上、Tペース以下のNo-mand’ landに当たるかと思います。
私の場合、これまでマラソンレースに向けた練習の一環として、ハーフマラソンのレースに出場し、ベストを更新を目指すという事を各シーズンの計画に組み込んでいましたが、その「練習の一環」という考え方自体、見直した方が良いかもしれないと考える様になりました。

詳細は『ハーフマラソンのベスト更新に意味はない!?』を見てニャ
「ではCVペースはNo-man’s landではないか?」と考えてみた
ここで一つ、当然出てくる疑問があります。
私が取り組んでいるCVインターバルトーニングは、4:05〜4:10/kmあたりで、ダニエルズの強度分類で言えばIペースとTペースのあいだに位置します。これはNo-man’s landではないのか、という疑問です。
これは正当な疑問だと思います。ダニエルズのNo-man’s landという定義から見れば、I-T間の帯域で走ることには確かに矛盾が生じます。
ただ、ダニエルズがNo-man’s landを定義した文脈は「心肺系のどのシステムを鍛えるか」という問いに基づいているかと思います。IペースはVO2maxを刺激する、TペースはLT(乳酸閾値)を動かす、という心肺系の目的でNo-man’s landを定義しているわけです。
心肺の不毛地帯は、筋肉の有効地帯になりうる
CVトレーニングの提唱者であるトム・シュワルツは、I-T間の強度が「TypeIIa筋繊維(速筋と遅筋の中間にある筋繊維)」に対して特異的な刺激を与えると主張しています。
ダニエルズの枠組みでは心肺の観点からNMLに位置するこの強度も、ターゲットを「筋繊維の適応」に切り替えると、有効な刺激帯域になりうる、というのがシュワルツの考え方です。
ただし、CVトレーニングとTypeIIa筋繊維の適応については、査読論文での直接的な検証はまだ限定的です。あくまでシュワルツの理論として受け取るのが適切で、「確立されたエビデンス」とは言えません。
こうして見ると、No-man’s landというのは「何も鍛えられない帯域」ではなく、「何を鍛えているかが不明確な帯域」という方が正確かもしれません。目的を持てばNo-man’s landではなくなる、というダニエルズ自身のMペース例外の扱いとも、考え方としては通じる部分があります。
練習に目的を持つとはどういうことか
ダニエルズはNo-man’s landの説明のあとに、こんな問いかけをしています。「What system do I hope to improve by doing this workout?(この練習でどのシステムを鍛えたいのか)」。
質の高い練習を積んでいる感覚があっても、目的が曖昧なまま走り続けることが、ダニエルズの言う「Quality-junk training」なのだという認識は、今でも練習設計のときに頭に置いています。
やっぱり忘れがちな『マラソントレーニングの心得』は常に肝に銘じておかないといけませんね。

