標高1,250mで高地トレーニング効果はあるか?|富士見高原夏合宿

調べてみた

読了時間: 約6分 / 対象: 高地・夏合宿を検討している中級ランナー

この記事でわかること

  • 高地トレーニングとして体に変化が起きるとされる標高と期間の目安
  • 標高1,250m・数日程度の合宿がその条件に対してどの位置にあるか
  • 平地と同じペースなのにキツく感じた理由は何だったのか

先日、八ヶ岳と裾野に広がる富士見高原まで、夏合宿に行ってきました。練習場所はジュネス八ヶ岳のクロスカントリーコースです。

標高約1,250mで、最高気温は都心と比べると5℃ほど低く、外に出た瞬間に心が折れそうになるような暑さが続くこの時期にはとても走りやすい環境でした。

一方で、平地と同じペースのつもりで走っているのに、なんとなくいつもよりキツく感じる気がしました。それもあって、仲間内では半分冗談で「高地トレーニングだね」なんて話をしていたのですが、実際のところどうなんでしょうね?

というわけで、いつものように調べてみました。

高地トレーニングは「Living High, Training Low」が原則

高地トレーニングの研究でよく引用されるのが、LevineとStray-Gundersenが1997年に発表した実験です。酸素の薄い標高2,500mで生活することで体に刺激を与えて赤血球を増やすなどの適応を起こしつつ、標高1,250mまで降りてトレーニングするという方法で、これは「Living High, Training Low」(生活は高地で、練習は低地で、という意味)と呼ばれています。

なぜTraining Lowでは、わざわざ低地まで降りる必要があるかというと、標高が高い場所ではそもそも強度の高い練習ができなくなるからです。酸素が薄いと最大酸素摂取量や出せるパワーそのものが下がってしまい、狙った強度の刺激を作ろうとしても、実際に出せるスピードは落ちてしまいます。この点は後ほど数字つきで触れます。強度の高い練習の質を落とさないために、生活の拠点は標高2,500mに置いたまま、練習だけを酸素の影響が小さい低地でやる。これがTraining Lowの発想のようです。

体に変化が起きるとされる標高はここから始まる

では、赤血球を増やすなどの体の変化(適応)が起きるには、どのくらいの標高が必要なんでしょうか。

体は標高が上がって酸素が薄くなると、エリスロポエチン(EPO、赤血球を増やすよう骨髄に指令を出すホルモン)というものを増やして対応しようとするそうです。SinexとChapmanによる2015年のレビュー論文によると、標高1,780mや2,085mではこのEPOの増加は24〜30%程度にとどまる一方、標高2,454mや2,805mになると77〜92%というより大きな増加が確認されているとのこと。持続的にEPOが増えるには、2,500〜3,000m程度の標高が必要だろうと考えられています。

ちなみに日本の高地トレーニング施設が実践ガイドラインとして紹介している目安によると、これよりやや低い標高1,300m前後から理想的とされている場合もあるようです。

標高1,250mは、このレビューで緩やかなEPO増加が報告されている1,780mという研究例にも届いていませんし、より低めに見積もった1,300m前後という目安にもわずかに届いていません。赤血球が増えるといった、いわゆる高地トレーニングの本命効果は、今回の標高では起きていないと考えるのが自然だと思います。

標高だけでなく日数も足りない

標高に加えて、どのくらいの期間そこに滞在する必要があるかという条件もあります。Brugniauxらによる2006年の研究によると、Living High, Training Lowの効果を狙う場合、標高3,000m以内で、最低18日間、1日12時間以上その標高で過ごすことが目安とされているそうです。

自分の場合1泊2日だったので、標高の条件を満たしていないうえに、日数の面でもまったく足りていません。今回の合宿は、どう見ても赤血球を増やすタイプの高地トレーニングにはなっていなかったと言えそうです。

それでもキツかったのはなぜか

ここまでだと「じゃあ何も起きていなかったのか」という話になりそうですが、実はそうとも言い切れません。体に長期的な変化が起きる話と、その場でその瞬間にキツく感じる話は、まったく別の仕組みだからです。

2007年にClarkらが発表した研究では、トレーニングを積んだサイクリストを標高200m、1,200m、2,200m、3,200mという4つの環境で運動させて比較しています。標高200mと比べて、標高1,200mの時点ですでに最大酸素摂取量(体が一度に取り込める酸素の量の上限)が8.2%低下し、5分間の全力走行における出力も5.8%低下していたそうです。1,200mという数字、今回の富士見高原とほぼ同じ標高です。

さらに別のレビュー論文では、標高750〜900mといったかなり低い場所でも最大酸素摂取量の低下が確認された研究があり、標高300mから2,800mにかけて、この低下はほぼ比例的に進んでいくと考えられているそうです。

「その場のキツさ」と「体の適応」は仕組みが違う

ここまでを整理すると、こういうことになります。

標高1,250mで数日過ごしたくらいでは、赤血球を増やすといった体の長期的な適応は期待しにくい。一方で、酸素が薄くなることによる、その場その場でのキツさは、もっと低い標高からすでに始まっている。

つまり平地と同じペースなのにキツく感じたという体感は、気のせいではなく、標高が上がったことによる素直な反応だったんですね。

ただしそのキツさが、練習の効果として体に蓄積されて残るかというと、それはまた別の話ということになりそうです。

標高1,250mでの合宿に意味はないか?

では、標高1,250mでの合宿に意味はないのか?

そんなことはないでしょう。高地トレーニングとしての効果は限定的だったとしても、都心の厳しい暑さから数日間逃げて、涼しい環境で練習するといった意味は十分あると思いますし、なによりも一般人のランナー的には、仲間とわいわいがやがや楽しむ気分転換を兼ねた小旅行といった側面が、こうした合宿の主目的だったりするのではないでしょうか。

本気で高地トレーニングの効果を狙うなら

もし本格的に高地トレーニングの効果を狙うなら、2,000m前後から、より確実な効果を狙うなら2,500〜3,000m、期間は最低でも2〜3週間という、市民ランナーにとってはかなりハードルの高い条件が必要になりそうです。

それでも日本国内に候補地がまったくないわけではありません。岐阜県にある飛騨御嶽高原高地トレーニングエリアは、文部科学省指定のナショナルトレーニングセンター拠点で、標高1,200〜2,200mの範囲に複数のゾーンが用意されています。標高1,800m前後のチャオ御岳ゾーンまで上がれば、さきほどのレビューが報告している数値例に近い標高になります。長野県東御市のGMOアスリーツパーク湯の丸も標高1,750mで、条件に近い場所のひとつです。

一方で、山形県にあるもう一つのNTC拠点、蔵王坊平アスリートヴィレッジは標高約1,000mです。運営者自身が準高所地と位置づけていて、富士見高原と同じように、練習環境としては優れていても、赤血球を増やすような適応を狙う場所ではなさそうです。

低酸素室や高地トレーニングマスクといった代替手段もありますが、これはまた別の機会に調べてみたいと思います。


免責: 本記事の内容は一般的な研究知見の紹介であり、医学的な助言ではありません。持病がある方や体調に不安がある方は、事前に医療機関にご相談ください。

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