読了時間: 約5分 / 対象: タイム短縮を目指すランナー
マラソンのペース配分について、前半と後半でどのように配分すれば良いでしょうか?
前半に貯金を作って、後半のタイムが落ちる、ポジティブスプリット。
前半を抑えて、後半をペースアップして走る、ネガティブスプリット。
多くのランナーが、結果としてポジティブスプリットになっているかと思いますが、個人的にはやはりネガティブスプリットが理想だと思っています。
狙ってもなかなかうまくいかないのが正直なところでもありますが、この記事ではネガティブスプリットのメリットについて考えてみたいと思います。
この記事でわかる事
- ネガティブスプリットが推奨される理由(経験則と科学的根拠)
- 無謀なペース設定がもたらすリスク(著者の実体験データつき)
- ネガティブスプリットで走れたレースの共通点と、狙っても難しい理由
ネガティブスプリット推奨論
なぜネガティブスプリットが良いと思うのか。
小出監督の言葉
ネガティブスプリットでまず思い浮かぶのが、故・小出義雄監督の著書「30キロ過ぎで一番速く走るマラソン」(角川SSC新書)です。高橋尚子選手をオリンピック金メダルに導いた名将の言葉とあって、ランナーへの影響力はそれなりにあったのではないでしょうか?
私も読んだことがありますが、主な主張は「前半の貯金より後半の失速のダメージが大きい」というものです。生理学的なメカニズムの説明まではなかったのですが、長年の指導経験から導かれた言葉は、説得力のあるものではありました。
「前半突っ込んで後半崩れたレースは、失った時間を後半では取り戻せない」という感覚は、終盤の大ブレーキの経験がある人なら共感できるのではないかと思います。
科学的根拠
では、この考え方については科学的な裏付けがあるのでしょうか。気になったので調べてみました。
前半を抑えて走ることの生理学的メリットとして、Grivas(「The physiology and psychology of negative splits: insights into optimal marathon pacing strategies」, Frontiers in Physiology, 2025)は3つの点を挙げています。
① エネルギーの「前借り」を防ぐ(Glycogen Sparing)
序盤の数秒の速さが、筋肉内のグリコーゲンを急激に浪費させ、その副産物(水素イオンなど)が蓄積する影響で筋肉が酸性に傾き、疲労を招くことが分かっています。それに対して、ペースを抑える事で効率的なエネルギー利用が可能になり、筋肉の疲労(中枢性疲労)を遅らせることができるとのこと。
② 「オーバーヒート」の回避(Thermoregulation)
前半からの速いペースは体温の急上昇につながるのに対して、ペースを抑えることで体温調節をコントロールしやすくなり、レース終盤に向けて冷却に割かれるエネルギーを節約し、走る方に回せるとのこと。
③ 「心拍数の暴走」を抑える(Cardiovascular Drift)
長時間走ると、ペースが変わらなくても心拍数が徐々に上がっていく「心血管ドリフト」という現象が起きますが、前半から心拍数が高い状態が続くと、後半に心拍数が限界を突破し、失速に繋がるとのこと。
小出監督の「経験則」には、こうした生理学的な裏付けがあったわけですね。
無謀な攻めは禁物 つくばの苦い記憶
一方、背伸びして目標に合わせたペースで行けるところまで行って、最後に粘るというスタイルの人もいるかと思います。
ただし、自分の場合は無謀な攻めは地獄を見るという苦い経験があるので、そのような走りはしないようにしています。
時は遡ること8年前。2018年11月、第38回つくばマラソンのことでした。
目標はサブ3。4:15/kmで押し切るプラン。
レース前の練習状況で得ている感覚から、サブ3レベルには達していないという自覚はありましたが、ダメもとで攻めてみようというチャレンジでした。
スタートしてみると、序盤のペースは4:08〜4:14/kmで推移していました。目標の4:15より速い。脚は動いていたし、気持ちよく走れていました。「案外いけるかもしれない」と、どこかで思っていたと思います。
そうは問屋がおろさないというのがフルマラソン。案の定、32km過ぎにそいつはやってきました。
まず左脚。続いて右脚。ふくらはぎだったり、大腿四頭筋だったり、ハムだったり。そこから攣りは上下・前後に伝播し、しまいには左右の脇腹と腹筋まで攣る始末。止まってストレッチ、また走る、また止まる。その繰り返しで、ゴール直前は全身のあらゆるところを伸ばそうと必死になっている、完全におかしな動きをする人になっていました。
ゴール直後は自力でストレッチすることすらもできず、救護の方に助けていただきながら、車椅子で運ばれる羽目になってしまいました。
タイムは3:10:18。平均ペース4:29/km。序盤の4:10台から、後半は5分〜6分台まで崩落しました。Garminのピッチグラフを見ると、34km以降に100spm台の点が散らばっています。走っているというより、攣りながら足を引きずっていた区間の痕跡です。
案の定サブ3どころではありませんでした。実力に見合わないペースで突っ込むと、どういう結果になるかということを身をもって実感したレースとなったのでした。
ネガティブスプリットで走れたレースは気持ちよかった
一方、ちゃんとネガティブスプリットで走れたレースもあります。自分のマラソン歴の中でそう言えるのは、今のところ2レースだけですが。
ひとつ目は2017年1月の第65回勝田全国マラソンです。前半をほぼ予定通り4:45〜4:50/km前後で入り、30km以降に徐々にペースを上げていく展開で、前半約1:41に対して後半約1:38とネガティブスプリットを達成しました。40km以降は4:34→4:20/kmとビルドアップし、当時初めて脚が攣ることなく完走できたレースでもあります。
ふたつ目は2018年2月の第67回別大マラソンです。4:30/kmのイーブンを基本に序盤を抑え、前半1:34:35に対して後半1:34:07と28秒のネガティブスプリット。スタートから約1400人を抜き、終始順位を落とさずにゴールできました。痙攣もなし。
どちらのレースも共通しているのは、終盤に落ちてくるランナーを追い抜いていく感覚があったことです。「ゴボウ抜き感」とでも言うのでしょうか。前半を我慢した分、後半に余力が残っている。このレースの終わり方は、後味がまるで違います。

ラスト2.195kmのタイムを比べてみるのもなかなか面白い二ャ
ただ、狙ってもなかなか難しい
とはいえ、ネガティブスプリットで走れたのは上記の2レースくらいで、それ以外はほぼポジティブスプリットです。狙ってもなかなかうまくいかないのが実情です。
難しい理由はいくつか思い当たります。
スタート直後の高揚感でペースが上がりやすいこと、周囲のランナーに引っ張られること、「前半に貯金を作りたい」という心理が働くこと。
そして一番大きいのは、ネガティブスプリットでベストを更新する為の適切なペースと自分の実力のバランスを見極めることそのものが難しいということかもしれません。
ネガティブスプリットを理想として持ち続ける
それでもネガティブスプリットを理想として走り続けたい、というのが自分の中での結論です。
もちろん個人差はあると思います。攻めた走りで後半粘る戦略がハマってベストを更新できる人も見てきました。ペース感覚が正確で、有酸素基盤がしっかりある人であれば、序盤に攻める選択肢もあり得ると思います。
ただ自分の場合は、痙攣しやすい体質という事情もあって、ネガティブスプリットを目指すという方針は変わりません。うまくいかないレースの方が多くても、それでも後半に余力を残して走ることをこれからも目指していきたいと思います。
おまけ:サブ2のラップタイム
2026/4/26に開催されたロンドンマラソンで、ケニアのセバスチャン・サウェ選手がレースでは人類初の2時間切りとなる1時間59分30秒を記録しましたが、このラップタイムを見てみましょう。

いやー、見事なネガティブスプリットですね30km以降なんて、惚れ惚れするような美しいビルドアップ。レベルは違えど自分もこんな走りをしてみたいものです。

ラスト2.195kmが最速の2:40/kmってヤバくニャい?

