高地トレーニングの効果はいつまで持つのか|「消えた赤血球」をめぐるまだ終わっていない論争

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読了時間: 約5分 / 対象: 本格的な高地合宿を検討している中級ランナー

この記事でわかること

  • 高地トレーニングで増えた赤血球は、平地に戻ってからどのくらい持つのか
  • パフォーマンスと赤血球の量の変化は、なぜ同じタイミングで動かないのか
  • 高地合宿からレースまで、どのくらい期間を空けるべきか

前回、標高1,250mで高地トレーニング効果はある?という記事を書いたのですが、そのやり取りの中で「じゃあちゃんとした高地トレーニングをやったとして、その効果っていつまで続くの?」という話になりました。言われてみれば、これはこれで気になります。

というわけで、こちらについても調べてみました。

赤血球の量は、その寿命よりずっと早く元に戻る

高地に数週間滞在すると、体は赤血球を増やして酸素を運ぶ力を高めようとします。ここまでは前回の記事で扱った通りです。

では、平地に戻ったあと、この増えた赤血球はどのくらい持つんでしょうか。

Lundbyらによる最近のレビューによると、血液中のヘモグロビン(赤血球に含まれる酸素を運ぶ役割を持つタンパク質)の量≒(赤血球の量)は、高地から戻って1〜2週間ほどでほぼ元の水準に戻ってしまうそうです。赤血球1個の寿命はだいたい120日とされているので、これはかなり不自然な速さです。せっかく高地で増やした赤血球が、寿命のごく一部しか経っていないのに、もう減り始めている計算になります。

エリートのバイアスロン選手を対象にした3週間の高地合宿の研究でも、平地帰還から14〜21日でヘモグロビンの量(≒赤血球の量)が元のレベルまで戻っていたと報告されています。数字はソースによって多少ばらつきますが、だいたい2〜3週間というのが目安として出てくる数字のようです。

なぜこんなに早く戻るのか、実はまだケリがついていない

ここからが今回一番おもしろかった部分です。

この「早く戻る」理由を調べていたら、「ネオサイトリシス(neocytolysis)」というなんのこっちゃ分からない概念に遭遇しました。日本語で検索してもほとんど出てこない、ちょっとマニアックな世界に入り込んでしまったようです。それでも英語の文献を辿ってみると、どうやら「高地で新しく作られた若い赤血球が、平地に戻ったときに優先的に壊される」という現象のことらしいです。もう赤血球を増やす必要がなくなったので、体が余分な分を処分している、というイメージです。

この現象を最初に報告した研究は、標高4,380mに住むペルーの高地住民を対象にしたもので、平地に降りた数日のうちに赤血球量が7〜10%減り、それが血液中のフェリチン(鉄を貯蔵するタンパク質)の急上昇とセットで起きていたことから、赤血球が壊されている(溶血している)と結論づけられました。

ただ、2021年に発表された研究は、これに真っ向から異を唱えています。高地で作られた赤血球に目印をつけて、平地に戻ったあとに本当に優先的に壊されているのかを追跡したところ、そういった様子は見られなかったそうです。むしろ、新しく赤血球を作るペースが早々に落ちて、あとは普段通り寿命を迎えた古い赤血球が自然に入れ替わっているだけではないか、という説を出しています。つまり「壊されている」のではなく「作るのをやめているだけ」かもしれない、ということです。

この2つの説、実はこの記事を書いている時点でも決着しておらず、研究者同士で反論・再反論が続いている状態のようです。赤血球の量が予想よりずっと早く元に戻ること自体はほぼ間違いなさそうですが、その理由については、まだ調べている最中の話として扱うのが正確だと思います。

パフォーマンスは、赤血球の量と同じペースでは動かない

さらにややこしいのが、赤血球の量が2週間前後で元に戻るからといって、パフォーマンスの向上もそこで消えるとは限らない、という点です。

高地トレーニングの帰還タイミングだけを専門に扱ったレビューによると、市民ランナーの場合、パフォーマンスの向上が平地帰還からおよそ2週間後に遅れて現れたという報告がある一方、エリート選手の場合は生活も練習も高地で行う方式のあと、最大3週間ほどパフォーマンスが落ち込むことがあるそうです。高地滞在中はどうしても強度の高い練習がしづらいので、エリート選手ほどこの「練習の質が落ちたことによる影響」を強く受けてしまうのかもしれません。

同じレビューは、赤血球・呼吸・走りのフォームといった複数の要素がそれぞれ違うペースで元に戻るため、レースに最適な帰還タイミングは今のところ個人差が大きく、はっきりした結論は出ていないとも述べています。

こうして見ると

古い資料だと、高地トレーニングの効果は2〜3ヶ月くらい持つという説明を見かけることがありますが、少なくとも赤血球の量に関しては、実際はもっと早く、2週間前後で元に戻ってしまうと考えたほうが正確そうです。ただしパフォーマンスの向上自体は赤血球の量ときれいに連動しているわけではなく、帰還後1〜3週間くらいのどこかにピークがある、というのが今のところの理解に近いと思います。

本格的な高地合宿(標高2,000〜3,000m級・3〜4週間規模)を組むなら、帰還からレースまでの期間を1〜3週間の範囲でいろいろ試しながら、自分のパターンを掴んでいく必要がありそうです。まだ自分自身はこの規模の高地合宿を経験したことがないので、今回はあくまで既存の研究を整理した内容になりますが、もし将来やる機会があれば、実際のデータを添えて書き直したいと思います。


免責: 本記事の内容は一般的な研究知見の紹介であり、医学的な助言ではありません。持病がある方や体調に不安がある方は、事前に医療機関にご相談ください。

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